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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)236号 判決

原告

矢野穂積(X)

被告

(東村山市長) 市川一男(Y)

右訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

高木裕康

事実及び理由

第三 争点に対する判断

二 争点1について

1  法三四八条二項は、そのただし書において、固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号所定の固定資産として使用する場合には、同項本文の規定にかかわらず、固定資産税を当該固定資産の所有者に課することができるとしているところ、一般に「有料」とは、財貨や役務等の利益の提供を受けるについて金員の支払を必要とすることを意味するものであり、通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても、その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われているときには、それが社会通念上無視し得る程度に少額でない限り、「固定資産を有料で借り受けた」場合に該当するものというべきである。そして、本件規定にいう「固定資産を有料で借り受けた」も、これと同趣旨と解すべきである。

本件においては、前記認定のとおり、本件各土地を借り受けるについて三・三平方メートル当たり月額五〇円の報償費を支払うことがその合意内容とされていたものであり、右報償費が借り受ける土地の面積に応じて一律に支払われていることからすれば、右報償費は、本件各土地使用の代償であることは明らかであって、その金額が社会通念上無規し得る程度に少額であるとも、土地を無償提供した土地所有者に対する社交儀礼としての謝礼であるともいえない。したがって、市が報償費を支払って本件各土地を借り受けたことは、「固定資産を有料で借り受けた」場合に該当するというべきである。

2  被告は、法三四八条二項ただし書が「有料」の場合に固定資産税を課税することができるとした趣旨は、この場合に所有者の負担能力を配慮する必要がないところにあるとして、右にいう「有料」とは、固定資産税より高額の賃料を支払う場合、あるいは民法上の有償契約による場合に限られると主張する。

しかしながら、同項ただし書は、固定資産税の用途非課税の例外について、所有者の現実の負担能力を具体的に要件とすることなく、単に「有料で借り受けた」場合には固定資産税を「課することができる」旨規定しているにすぎないのであり、後に説示のとおり、地方団体が具体的に条例で課税するかどうかを定める場合において、使用料の額のいかんを問わず課税することにするのか、使用料の額の多寡を考慮して課税する場合としない場合を定めるのかについては、地方団体の裁量によることができるのであって、仮に、同項ただし書の趣旨が被告主張のような点を配慮したものであるとしても、具体的にどのような配慮をするかは条例において考慮することができるのであるから、そのことから直ちに同項ただし書の定める「有料」の意義を被告が主張するような限定されたものと解さなければならないものとはいえない。そして、本件規定が法三四八条二項ただし書と全く同一の「有料」という文言を使用していることからすれば、本件規定における「有料」も法三四八条二項ただし書と同様の意義に解され、本件規定は固定資産の使用の代償として支払われる金員が社会通念上無視し得る程度に少額でない限り、その額のいかんを問わず固定資産税を課税することにしたものと解さざるを得ず、本件規定における「有料」を被告の主張するような「固定資産税より高額の賃料を支払う場合」とか、「民法上の有償契約による場合」という意味に限定して解することはできないというべきである。したがって、この点についての被告の主張は採用できない。

3  また、被告は、本件規定にいう「固定資産税を課する」という趣旨は「固定資産税を課することができる」と同趣旨であり、本件非課税措置は、被告の裁量の範囲内であると主張する。

確かに、法三四八条二項ただし書は、固定資産税を賦課するかどうかの判断を課税権者である地方公共団体の裁量にゆだねているものと解されるところであるが、法三条一項が、地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定めをするには、当該地方団体の条例によらなければならないとしていることや、税の賦課に当たっての適正、公平の要請からすれば、税の賦課に関する裁量は国の法令又は地方団体の条例の定める基準に従って行われるべきものであり、そうした定めがないにもかかわらず、賦課権者の個別的な裁量によって税を賦課し、又はしないことは許されないというべきである。そして、本件現定は、単に「有料で借り受けた」場合には「固定資産税を課する」旨規定しているのであるから、所定の場合には、その具体的事情を問わずに課税することとしたものであることは明らかであり、この点についての被告の主張は失当である。

4  さらに、被告は、市が本件各土地を借り受けるに際して、固定資産税を非課税とする旨を約束し、土地所有者がそれを信頼して貸付けを行ったものである以上、被告が本件各土地の所有者に対して本件固定資産税を遡って賦課徴収することは、禁反言の法理により許されない旨主張する。

しかしながら、租税法規は、納税者間の平等、公平を確保するためにも厳格に適用されるべきものであるところ、被告に本件固定資産税を課税すべき義務がある以上、税務手続とは直接関係を有しない土地の借受けに関して市が非課税とする旨の約束をしていたとしても、そうした土地所有者の信頼の保護は、租税法規に反する取扱いを行うこと以外の方法によって図るべきものであり、前記認定の本件各土地の借受けの経緯を考慮しても、このことから直ちに禁反言の法理により租税の賦課徴収が許されなくなると解することはできず、被告の右主張は失当である。

また、被告は、仮に被告が本件固定資産税の賦課徴収を行うべき義務を負っていたとしても、一方では、体育施設を必要とする市及び市民の利益並びに本件各土地を公益のために低額で提供してくれている所有者の信頼を守る職務上の義務を負っており、被告が後者の義務の履行を選択するために前者の義務を履行しなかったとしても違法ではない旨主張する。

しかしながら、地方公共団体における行政目的は、本来、法令に適合する方法によって達成されるべきものであり、法令に適合する方法によって当該目的を達成することが困難であるとしても、当然に法令に違反する施策をとることが許されるものでないことは明らかである。しかも、前記認定の事実によっても、被告の主張するような市民の利益及び土地所有者の信頼の保護が法令に違反する措置をとる以外に実現の可能性がなかったとまではいえないのであるから、被告の右主張は失当であるといわざるを得ない。

5  以上によれば、被告の本件非課税措置は、本件規定に違反する違法なものであるといわざるを得ない。

三 争点2について

1  本件非課税措置が違法であることは、右のとおりであり、本件非課税措置により、本件固定資産税を賦課徴収することができなくなったのであるから、市は、本件固定資産税額に相当する額の損害を被ったものというべきであるところ、本件固定資産税額が、別紙1借用地一覧表(略)の固定資産税額欄記載のとおりであることは前記のとおりであるから、市が被った損害は、八七七万四三二九円であることになる。

2  ところで、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく住民訴訟において住民が代位行使する損害賠償請求権は、民法その他の私法上の損害賠償請求権と異なるところはないというべきであるから、損害の有無、その額については、損益相殺が問題となる場合はこれを行った上で確定すべきものである。したがって、財務会計上の行為により地方公共団体に損害が生じたとしても、他方、右行為の結果、その地方公共団体が利益を得、あるいは支出を免れることによって利得をしている場合、右行為と両者との間に相当因果関係があると認められる限りは、損益相殺を行うことができるというべきである。

原告は、租税法律主義の原則から税金との相殺は法律に定めのない限り禁止されるべきものであるところ、本件のように租税法律関係を背景にもつ税相当額の損害賠償請求についても、損害額の算定に際して損益相殺の法理を適用することは、結果的に租税法律主義の原則を否定することになるから許されない旨主張するが、税相当額の損害賠償を求める住民訴訟であっても、その損害賠償請求権が民法その他の私法上の損害賠償請求権と異なるものでないことは前示のとおりであり、損害賠償制度における衡平の理念が適用されるべきことは同様であるし、税相当額の損害について損益相殺を適用することが、直ちに税金との相殺を認めることになるわけではなく、租税法律主義に反するものでもないことは明らかである。

3  そこで、本件についてみるに、前記認定事実によれば、市は、本件各土地を借り受けるに際し、土地所有者に対して、本件各土地の固定資産税を非課税とする旨及び報償費を支払う旨を約束して、本件各土地の賃借の合意に至っているものであり、被告が右約束に従って本件非課税措置をとったからこそ、本件固定資産税額にも満たず、近傍の駐車場の賃料と比べても著しく低額な報償費を支払うだけで、本件各土地を借り受けて使用することができたものというべきであり、被告が本件非課税措置をとることなく本件固定資産税を賦課した場合に、なお本件各土地の所有者が低額な報償費を代償として土地の使用を許諾したはずであるというような事情もうかがわれない。むしろ、平成二年度以降に契約方法を改めて固定資産税を課税する契約方法によった場合の賃料額に照らせば、本件固定資産税を賦課することを前提にして、市が土地の借受けを希望する場合には、土地使用の対価として、近隣の相場に従った額又はそれに近い額の貸料を支払う必要が生じたであろうことは容易に推認できるのであるから、市は本件非課税措置によって適法な賦課徴収により得べかりし本件固定資産税額相当の損害を受けると同時に、適法な賦課徴収が行われたなら支払わなければならない本件各土地使用の対価の支払を免れ、右対価の額から本件各土地使用の代償として支払った報償費の額を差し引いた額相当のに利益を得ているものというべきである。

したがって、本件非課税措置による市の損害と、右措置をとらなかった場合に必要とされる右差引後の利益とは、共に本件非課税措置と相当因果関係があるというべきであるから、両者は損益相殺の対象となるものというべきである。

そして、本件各土地が市民のための体育施設用地として使用されることからすれば、近傍の民間駐車場の賃料がそのまま直ちに本件各土地について本来支払うべき通常の賃料相当額であるとまではいえないが、前記認定の近傍の民間駐車場の賃料額及び平成二年度以降の固定資産税を課税する契約方法によった場合の賃料額に照らせば、本件各土地の通常の賃料額から報償費を差し引いた額が、少なくとも本件固定資産税額を超えるものであることは優に推認することができるから、結局、市には、被告が本件非課税措置をとったことによる損害はなかったということができる(なお、右報償費が本件各土地の実測面積に応じて支払われていることは前記認定のとおりであり、〔証拠略〕によれば、これを本件各土地の登記簿上の面積に引き直した場合には、右報償費の額は、登記簿上の面積三・三平方メートル当たり月額五〇円から約七六円となることが認められるが、右金額に照らせば、右の推認の結果に影響のないことは明らかである。)。

4  これに対し、原告は、本件各土地がいずれも農地であるとして、その借受けに際して通常支払うべき賃料額は遊休農地としての賃料額であるとか、本件各土地の所有者がこれを市に貸したのは、市が固定資産税を非課税とすることを約束したからではなく、市に貸した場合には、貸借終了後に長期営農継続農地としての認定を受けることができるからであり、通常支払うべき賃料額は、長期営農継続農地の認定を受けることができなくなる民間駐車場への転用を前提として考えるべきではなく、農地を農地として貸した場合の賃料であると主張する。

しかしながら、仮に、借受時点で本件各土地がすべて農地であったとしても、本件各土地は、市が体育施設用地として農地以外の目的で使用するために借り受けたものであり、そうした場合に遊休農地としての賃料額をもって借り受けることが当然に可能であったとはいえないことは明らかである。また、本件各土地の借受けに際しての固定資産税を非課税とする約束に従った本件非課税措置がなければ、本件各土地を低額な報償費を支払うだけで借り受けることができなかったであろうことは前示したとおりであり、仮に、本件各土地の所有者が、市に貸し付けた場合には長期営農継続農地としての優遇措置を受けることができることを考慮することがあったとしても、原告の主張によっても、長期営農継続農地としての優遇措置を受けるためには、雑種地として課税されないことが必要であるというのであり、本件において雑種地として固定資産税を賦課された場合には、長期営農継続農地としての優遇措置を受けることが困難になることがうかがわれるのであるから、そうした場合に土地所有者が遊休農地並の賃料で貸すなどということは到底考えられないものといわざるを得ない。

したがって、この点の原告の主張は採用することができない。

5  以上のとおり、被告が本件非課税措置をとったことにより、市は、本件固定資産税額相当の収入を得ることができなかったが、他方で、これを上回る利益を得たものであり、結局、市には賠償されるべき損害が生じていないというべきことになる。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 竹田光広 岡田幸人)

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